カリフォルニアの災害:史上最悪の山火事

2017/11/29

カテゴリー:Silicon Valley Now

Vol. 208

ほぼ一年ぶりの『シリコンバレーナウ』となりますが、今回は、カリフォルニア北部で起きた山火事のお話をいたしましょう。



ご存じのように、10月中旬に北カリフォルニアで発生した山火事は、季節外れの突風にあおられ、一気に十数カ所へと飛び火し、世界的に有名なワイン産地ナパ(Napa)とソノマ(Sonoma)の山や谷に散在するワイナリーや、近隣の住宅地を脅かしました。



10月8日(日)晩、火事の一報は、その日の夕方までプロゴルフトーナメントが開かれたシルヴェラード・カントリークラブ付近から報道されます。「あら、さっきまでフィル・ミケルソンがプレーしてたよねぇ」と呑気にニュースを観ていたのですが、驚いたのは、その翌朝。テレビを点けてみると、シルヴェラードから遠く離れたサンタローザ(Santa Rosa)の住宅地が燃えて尽きているではありませんか!

とくにコーフィーパークと呼ばれる地区は、3,000棟の住宅がすべて焼かれ、まるで戦火に遭ったかのような焼け野原になっています。ここは、出火地点と思われるナパのシルヴェラード・トレールから数十キロは離れているので、夜中のうちに、悪魔があっちこっちに放火して回ったのか? と目を疑ったほど。どうやら、その晩は、時速100キロ近い季節外れの突風が東から西に吹き荒れ、ナパの火が、突風に乗って山を登り、渓谷を駆け下り、数十キロ離れたサンタローザの住宅地を焼き尽くしたようです。

日曜の晩に起こった火は、真夜中には近隣の住宅やワイナリーを脅かしましたが、夜中の2時には、すでにサンタローザの住宅地まで迫っていたといいます。





その朝は、火事から80キロ南に位置するサンフランシスコに滞在していましたが、いつもは週末にソノマの自宅に戻り、日曜の夕方にはサンフランシスコに帰って来るお隣さんが、戻って来た気配がしません。もしかすると、彼らの山あいの家も火が迫っていて強制避難の対象となっているのかもしれない、と他人事ではありません。

そして、いつもワインクラブの宅配でお世話になっているナパ北部のワイナリーも心配です。ですから、消息を尋ね無事を願うメールを差し上げると、さっそく返答がありました。「わたしたちはみんな大丈夫だし、ワイナリーも発電機を使ってるから、ワインも大丈夫よ。わたしたちスタッフのほとんどは避難対象になったり、自主的に避難したりしてるけど、とにかく煙がひどいのよ。火事はまだまったく消火できてないし("zero" percent contained)、電気も携帯電話もナパのほとんどで使えないし、そんな状態よ。でも、がんばるわ!」とのことでした。



発火の晩の突風は、その後数日間は治まらず、ナパやソノマの谷間はまわりを炎と煙に囲まれ、3万人が避難対象となりました。呼吸器系の疾患を持つ人は「N95」の呼吸保護マスクを付けるようにと促され、付近の小売店ではN95マスクが品切れとなりました。

煙は風に乗って四方に舞い上がり、近くのサンフランシスコばかりではなく、「シリコンバレー」と呼ばれる「サンタクララの谷」南端の我が家でも、窓を開けられないほどの煙でした。「目がチカチカする(burning eyes)とか喉がゴロゴロする(itchy throat)というのは当たり前だから、そんなことで病院には来るな!」と喚起されます。なぜなら、もっと重症の人がたくさんいるから。

こちらは、被害のひどかったサンタローザ市にあるキャンピングカーパーク(移動型住宅地)ですが、後ろに見えるビルは、市内で一番大きな病院です。普段は、災禍から避難する先が病院ですが、このときは病院が避難するしかなく、何時間もかけて看護師やスタッフの方々が入院患者さんを運び出す事態ともなりました。



消火活動には、地元の消防隊だけではなく、近隣都市や州内の消防隊、そして夜を徹して他州からも続々と消防車の隊列が駆けつけます。山火事の多い西側の州では、災害時には互いに助け合う取り決めもあって、遠く東海岸の州から派遣された消防隊を含めて、全米17州から助っ人に現れます。陸続きのカナダからも応援が来ましたが、遠く海を越えオーストラリアも消防隊を派遣してくれました。1万人の消防士が集結し、付近の公園にはテント都市ができています。

空からは消火ヘリコプターやボーイング747、DC-10のジェット機が水や消火剤を撒き、陸地からは人海戦術で炎の最前線と闘います。ときには消防士が計画的に発火して、水や消火剤が届く場所に燃え盛る炎を導きます。その甲斐あって、当初は十数カ所に散在していた山火事も、三つの大火にまとまり消火活動は有利に運びました。

火の手が上がった晩には、カリフォルニア・ハイウェイパトロールもヘリコプターを出動し、山あいの家屋から逃げ遅れた住民44名を助け出しました。災害には慣れているはずの操縦士も「あんなに大きな炎のハリケーンは見たことがない」と振り返ります。



こういった災害救助の専門家(first responders)ばかりではなく、市井の人たちの頑張りも聞こえています。大火が迫り来る中、自分の避難は先延ばしにして、眠りこけている隣人のドアを叩いて避難を促した青年。付近の人たちが避難する手助けばかりして、自分は写真の一枚も持ち出すことができなかった男性。裏庭に火が迫っているのを見て、水撒きホースで母屋を守ってくれた、通りすがりの男性。この方は、メキシコに住んでいた時に火事で家を失くした経験があるので、他人事とは思えなかったとのこと。



今は「ワインカントリー山火事(Wine Country Wildfires)」と呼ばれる大火では、8,700棟の建物が焼け落ち、犠牲者は消防士ひとりを含め42名と報道されました。その中には、出火地点近くに住み、少し前に結婚75周年を祝ったばかりの100歳と98歳の「おしどり夫婦」がいらっしゃいます。そして、これを書いている間に17歳の高校生の女の子が43人目の犠牲者となったと報道されました。弟を失い、彼女自身は両足を切断するほどのひどい火傷を負いましたが、意識を取り戻すこともなく亡くなったということです。

近くのサンタローザ高校では、3週間たって初めて授業が再開され、復興の第一歩を踏み出したようです。家も持ち物も大事な思い出もすべて焼かれた人々にとっては、何年もかかる復興の道のりですが、学校や職場に戻ったり、コミュニティーのボランティアをしたりと、少しずつ「日常」を取り戻そうとしています。



今回の大火の原因は、電力供給会社PG&Eの高圧線が切れて、地面に触れた所から発火したのではないかと言われていますが、現在は調査中です。一般的に、山火事(wildfire)が起きる原因は、そのほとんどが人為的なものだと言われます。切れた電線から発火したり、庭の草木を手入れする電気ノコギリから発火したり、キャンプの火が燃え広がったり、はたまた放火だったり。そういった事情があるので、森林公園では、乾燥注意報や強風注意報が出ている日にはキャンプファイアを禁止するのですが、それを守らないキャンパーも多く、ちょっと目を離した隙に手が追えなくなってしまうことも多々あります。

とくに、昨年まで干ばつ(drought)が5年も続いたカリフォルニアですので、夏の乾季の間に乾ききった樹木は、余計に燃えやすい状態になっています。もともと耐火能力を持つ在来種も、干ばつで弱ったり病気になったりして、山火事の格好の「燃料」となるのです。発火から10日目に降った雨は、139日ぶりの恵みの雨となり、消火活動の助けにもなりました。

昨年までの干ばつが終わったと思えば、年初はシエラネヴァダ山脈に記録的な積雪があり、夏になると、観測史上最高の華氏106度(41℃)を記録したサンフランシスコ市をはじめとして、ベイエリアは連日記録を塗り替える猛暑となりました。その中で起きた山火事は、カリフォルニア史上最悪の猛威を振るいましたが、これは地球規模の気候変動のせいなのか? と頭をよぎります。



ちなみに、「ワインカントリー山火事」と呼ばれ、すべてを焼かれるなど甚大な被害を受けたワイナリーもありますが、多くは建物やブドウ畑の一部を焼かれたり、消火活動のおかげで火を免れたりと、北カリフォルニアのワイン産業は健在です。

山火事は10月中旬に起きたので、白ワインになるシャルドネやソーヴィニョンブランのブドウは収穫したあとでしたし、メルローやカベルネソーヴィニョンなど赤ワインのブドウの多くも収穫が終わったあとでした。ナパのワイン醸造業者協会によると、ナパでは9割のブドウがすでに収穫されていた(だから、2017年のヴィンテージは心配ない)、とのことでした。

現在は、ほとんどのワイナリーのテイスティングルームが平常通り営業しているようですし、「どうぞおいでください!」と歓迎ムードに戻っていることは確かです。



夏来 潤(なつき じゅん)



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