14日間の心臓モニター: iRhythm社の「Zioパッチ」

2018/07/17

カテゴリー:Silicon Valley Now

Vol. 216

先月は「シリコンバレーナウ」をお休みしてしまいましたが、今月は、ちょっと早めに健康に関するお話をいたしましょう。

<「Zioパッチ」って?>

突然ですが、今は、心臓の動きをモニターしているところです。しかも、一般的に知られる24時間の「ホルター心電図」ではなく、14日間に渡るモニター装置を付けています。

こちらは、サンフランシスコに本社のある iRhythm(アイリズム)社が製品化した小型モニターで、「Zio(ズィオ)XTパッチ」と呼ばれるもの。

ひと昔前に流行った万歩計くらいのサイズで、心臓のあたりにペタッとテープで装着するようになっています。耐水性なので、シャワーも浴びられますし、単体のワイヤレス(無線)機器なので、ホルター心電図のように電線でつないだ携帯装置を装着することもありません。

従来のホルター心電図は、胸の数カ所に電極を取り付け、電線を通して腰に付けた携帯装置に記録していく方法ですが、記録も24〜48時間と限られるし、身体じゅうに電線が張っているので水に濡れることもできません。

一方、こちらのZioパッチだと、シャワーくらいなら問題はないし、運動するときも、寝るときも邪魔にならないし、付けていることを意識しないでいい、ありがたい装置とも言えるでしょうか。



このZioパッチは、心電図機能や記憶媒体の小型化によって長時間の装着が可能になった画期的な装置ですが、二週間に渡って連続装着することによって、より正確な心臓の動きを把握できるようになります。よく「病院で心電図をとると、異常が起こらない」という話を聞きますが、二週間の心臓の動きをすべて克明に記録することで、ごく短時間に起きた異変も逃さないのです。

パッチの装着は病院の担当者にやってもらいましたが、利用者としては、ひとつやることがあるのです。それは、何かしら心臓の鼓動に異常を感じたら、装置の表面にあるボタンをプチッと押して、データ上の目印とすること。そして、ボタンを押した時刻と理由、症状の長さ、そのときに何をしていたかを付属の専用ノートに書き込むことになっています。ボタンを押さなくても、異変を逃すことはありませんが、「本人に症状の自覚があったのか?」を調べているようです。

「ノートに手書き」というのが嫌いな人には、iOS対応のスマートフォンアプリかオンラインで書き込むこともできます。が、わたし自身は病院の言いつけ通りに、ちまちまとノートに記録しています。

二週間装着したあとはどうするのか? というと、自分で装置を外して、iRhythm社の南カリフォルニアのデータセンターに郵送します。ここで膨大なデータをコンピュータ解析して、リポートにまとめあげたあと、病院に送られ主治医に伝わる仕組みになっています。

見かけはワイヤレス装置なので、ここから遠隔地に向かって心電図を送信しているのか? と思いがちですが、装置内の記憶媒体に収められたデータは、あくまでも郵送で iRhythm社に送られ、同社がコンピュータ解析することになっています。ですから、身につけるウェアラブル生体センサーで集めたデータを、物理的にネット上にクラウド化して分析する、というタイプの IoT(アイオーティー:モノのインターネット)製品です。

病院の担当者いわく、「装置は iRhythm社からリースしているものだから、ちゃんと返却しないといけないんだよ」とのこと。装置を回収することもさることながら、きっと同社は、病院に装置を貸し出すリース料よりも、膨大なデータ解析のノウハウを武器として「飯を食っている」のでしょう。

そう、人の心臓は、1分間に60〜100回の拍動をくり返しているそうですが、14日間では、120万〜200万回。その膨大な数と(さまざまな種類の)波形を分析する iRhythm社には、大勢の患者さんからとった心電図データの蓄積があり、それを緻密に分析してきたことで、機械自体も日々賢くなっています。

なにせ、会社の名前は「iRhythm:アイリズム」。ですから、心臓の拍動(Rhythm:リズム)のデータ化・解析(i:アイ)に特化し、いち早く異変を診断することを目標に掲げる会社というわけです。



<心臓はポンプ>

それで、そもそもどうして心臓モニターを付けることになったのかというと、6月に日本に戻った際、睡眠中に心臓の異常な動きを感じて目を覚ましたからでした。

自分では「あ、心房細動(しんぼうさいどう)が起きている!」と驚いて目が覚めたのですが、ほんの短い時間ではあるものの、かなり強くピクピクと心臓が痙攣していたのでした。

いえ、そんなことは生まれて初めての体験でしたが、そのピクピクとした動きは、テレビで観た人工心臓を使った実験によく似ていたんですよ。ある番組で、「さあ、人工心臓で心房細動を起こしてみましょう」と言いながら、東京医科歯科大学の名誉教授の方が説明なさったのですが、その小刻みな動きと、自分の鼓動がよく似ていたんです。

それ以来、痙攣は起きてはいませんが、ことは心臓にかかわるので、アメリカに戻って「ホルター心電図をさせてよ」と主治医にメールしてみました。すると、最初は「様子を見てみたら?」と悠長なことを言っていましたが、結局は「じゃあ、14日間の Zioパッチをしてみよう」ということになったのでした。

まあ、人も40歳を過ぎると、血管ももうピチピチというわけにはいかないだろうし、心筋だって疲れてくることもあるのでしょう。ですから、ちょっと鼓動が乱れたにしても不思議ではないのかもしれません。



普段は、心臓がどんな構造になっているかなんて考えたこともないですが、心臓の上の方には「心房」があって、下の方に「心室」があります。心房と心室は、それぞれ「右」と「左」に分かれるので、全体は4つの部屋に分かれています。右側の心房と心室は、体全体から血液をもらって肺に送り込み、左側は、肺からきれいな血液をもらって大動脈を通して体全体に送り込む、というポンプの役目をしています。

そのポンプの動きをさせるのが、右側の心房で生まれる電気信号です。この刺激を受けて、最初に心房が収縮して、次に心室が収縮するという、規則正しい動きをしています。が、この電気信号がうまく伝達されなかったり、別の場所で勝手に生まれたりすると、ポンプの動きが増えたり減ったり、リズムが乱れたりします。それが、不整脈と呼ばれます。

不整脈(arrhythmia)といえば、いろんな種類があって、ときには動悸やめまいを感じることもありますが、多くの場合は、すぐに命にかかわるような症状ではないそうです。が、そのうちの心房細動などは、ちょっと危ないこともあるみたいです。

心房細動(atrial fibrillation、A-fib)は、勝手に心房の別の場所で電気信号が生まれ、心房が小刻みに震えるもの。症状そのものは命をおびやかすものではありませんが、怖いのは、心房の動きが長く乱れたとき。心房がピクピクと痙攣しているうちに、心房内の血流が停滞して血液成分が固まり、ドロっとした血栓(blood clots)ができてしまうのです。

心房にできた血栓はそこに留まってくれればいいのですが、そのうちに心室に降りてきて、何かの拍子にフッと大動脈を通って体内に飛ぶことがあります。それが、脳につながる血管をふさいでしまうと、脳梗塞(のうこうそく)を起こすのです。さらに怖いことには、心房でできた血栓は大きくなりやすく、脳梗塞も重症化しやすいのだとか!

上述の番組では、まさに心室にたゆたう血栓が、グルッと心室を一周したあと、フッと大動脈に消えてしまった瞬間をとらえた映像も紹介していました。いったい検査技師はどうやってあの瞬間をとらえたのだろう? と感心したと同時に、「え〜、あの患者さん、どうなっちゃったの?」と、それ以来ずっと心配しています。



そんなわけで、「心房細動でできた血栓は怖い」とすっかり頭に刻み込まれたものですから、ちょっとしたことでも怖くなって、心臓モニターをやってみる気になったのでした。せっかく技術は揃っているし、病院は予防医療(preventive medicine)を推進していて検査料はタダだし、だったら、やってみる価値はあるでしょう。

まだまだ数日間は Zioパッチを付けていないといけませんが、果たしてどんな結果が出てくるのか、期待半分、不安半分といった心境でしょうか。



<付記>

蛇足ではありますが、つい先日、アメリカの医学誌 Journal of the American Medical Association (JAMA)では、「Zioパッチを使うことで心房細動の診断率が上がった」という研究論文が掲載されました。

自覚症状はないけれど、心房細動が疑われる患者さん5200人のうち、3分の1の患者さんにZioパッチを使って拍動をモニターしてもらい、残りの患者さんには心電図によるモニターを行ってみると、4ヶ月後には前者のグループの診断率は3.9%、後者のグループは0.9%、1年後には前者が6.7%、後者が2.6%と、明らかに違いが見られるということでした。(Effect of a Home-Based Wearable Continuous ECG Monitoring Patch on Detection of Undiagnosed Atrial Fibrillation: The mSToPS Randomized Clinical Trial, by Steven R. Steinhubl, MD, Jill Waalen, MD, MPH, Alison M. Edwards, MStat, et.al, Journal of the American Medical Association, July 10, 2018)

Zioパッチは自分でも装着が可能なので、病院が遠くて頻繁に通院できない人でも、危ない不整脈の診断が自宅で可能になるだろう、と iRhythm社は発表しています。(今のところ、同社はアメリカとイギリスをはじめとして、北米とヨーロッパのみでサービスを展開しています)



夏来 潤(なつき じゅん)

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