街角で IoT:「大きなお腹」とスマートパーキング

2017/12/07

カテゴリー:Silicon Valley Now

Vol. 209

近年、「IoT(モノのインターネット)」という言葉をよく耳にします。けれども、言葉ばかりが先行して、なかなか実態が付いて行かない感もあります。そこで、今月は、たとえばカリフォルニアの街角では、どういうものを見かけるんだろう? といったお話をいたしましょう。



<ビッグベリー(大きなお腹)>

cimg3378small今さらご説明するまでもありませんが、IoT というのは、Internet of Things(モノのインターネット)の略称ですね。モノとモノがネットや近距離無線通信でつながり、人の生活が便利に運ぶようにと、機械が代わってお仕事をしてくれることです。



いろんなモノに「センサー」が付くことによって、たとえば、スマートフォンを使って電気を点けたり消したり、壁に取り付けたハブが部屋を快適な温度に調整したり、玄関の鍵を遠隔地から開けたり閉めたりと、昔では考えられない芸当が可能になります。センサーが感知するのは、モーション(動き)だったり、温度だったり、湿度だったりと場面に応じて使い分けができるので、可能性は無限です。モノがネットワークにつながってお利口さんになるので、「スマート(賢い)〜」と呼ばれたりもします。



けれども、実際に家の中でIoT製品を使ってみると、うまく動かなかったり、あまりメリットを感じなかったりして、我が家では「お蔵入り」したモノもたくさんあります。



先日ショッピングサイトのアマゾン(Amazon.com)は、オフィスや外出先にいる間に自宅の玄関の鍵を開けてあげて、宅配担当者に荷物をドアの中に入れてもらう「アマゾン・キー」というサービスを一部地域で始めました。遠隔地から解錠できるスマートキーとウェブカムを家の中に設置して、配達があるときだけアマゾンのシステムがドアを解錠するというものです。配達が済むとユーザに「お届けしました」というお知らせが来て、配達のビデオを確認できるようになっています。



が、これだって「外に置きっぱなしにした物品が盗まれなくていい」というアイディアは良いですが、「ドアを開けるコードをハッキングされたら?」とか「ドアの内側に設置したカメラで、アマゾンに家の中を覗かれるの?」と、ちょっと気味の悪い部分もあります。現に、解錠コードと監視ビデオをハッキングできることが判明し、アマゾンはあわててソフトウェアアップデートをリリースしたとか。



比較的シンプルな家の中ですらそんな状態なので、公共の場で展開する IoT製品となると、もっともっと複雑で難しく、いまだ発展途上ではあります。けれども、ちらほらと街角にも IoT製品が登場しているようなので、サンフランシスコ市内で見かけた実例をご紹介いたしましょう。



img_6744まずは、こちらの「ビッグベリー(Bigbelly)」。つまり「大きなお腹」という名前ですが、正体はゴミ箱です。二つのゴミ箱が一セットになっていて、普通の燃えるゴミ(trash)とリサイクルのゴミ(recyclable waste)を分けて入れるようになっています。



何が新しいかと言えば、ゴミ箱の天井にソーラーパネルが付いていて、太陽光発電で働けること。まずは、ゴミ箱の中にあるセンサーで「お腹の満足度(ゴミの詰まり具合)」を感知して、ゴミをコンパクトに圧縮しながら容量を増やすことができます。同じサイズの通常のゴミ箱よりも8倍は容量が増えるとか。



img_6745ed2そして、外の世界と「お話しする」こともできます。そうなんです、ゴミ箱がいっぱいになってきたら、ゴミ収集担当者に「ゴミを集めてよ」とメールで頼むこともできるんです。ゴミ箱はネット経由でマネージコンソール(管理画面)とつながっているので、タイムリーに担当者に連絡できるだけではなく、どこのゴミ箱がどれくらいの頻度で収集が必要なのか? といった分析もできます。



bigbelly-waste-manage-consoleですから、効率的なルートを割り出し、無駄に空のゴミ箱を集めに行かなくてもよくなるので、費用の節約にもなりますし、大きなゴミ収集車が道路を走らないことで、渋滞緩和や排気ガスの削減にも貢献する、ということです。そうそう、アメリカの都市部にはネズミが多かったりするので、ネズミが入り込めないような頑丈な設計にもなっているとか(先月発表されたランキングでは、サンフランシスコは、シカゴ、ニューヨーク、ロスアンジェルスに次いでネズミの多い街だとか!)。



img_3889_bigbelly-with-compost-2そして、サンフランシスコ市では、残飯や具材の切り落としの生ゴミを「コンポスト(Compost)」して有機肥料にしようと熱心に取り組んでいます。コンポストは、土中のミミズや微生物の力で生ごみを堆肥に変えるリサイクル方法ですが、こちらの「ビッグベリー」にも新たにコンポスト用の容器が加わり、街角のゴミ収集にもさらに磨きがかかっています。とくに観光客の集まる場所では、食べ残しがたくさん出ますから、コンポスト容器は有効です(サンフランシスコの場合は、各家庭が自宅でコンポストに取り組むのではなく、市が生ゴミを集めて一括してやってくれるので、市民にとってもお店にとっても敷居は低いです)。



img_3995アメリカでは、ゴミが散らかっている光景をよく目にしますが、ゴミ箱の容量が増えたり、タイムリーに収集車が来てくれたりすると、見た目にも美しい街づくりができるのかもしれませんね。

<スマートパーキング>

img_0336_mission-mint-plaza-parkingサンフランシスコの街は、とにかく狭いです。海に突き出た半島の突端にある、わずか7マイル(11キロ)四方の面積です。ですから、駐車場となると「取り合い」になるほどに貴重なスペースですし、全米でも珍しく立体駐車場付きのマンションもあるくらいです(写真は、ミッション通りと5番通りにあるマンションの駐車場)。



そんな背景があるので、サンフランシスコ市は、パーキングに関しては何年も前から涙ぐましい努力を続けていて、「SFpark(エスエフ・パーク)」という名の下、市が経営する立体駐車場や商業地域の路上パーキングにセンサーを取り付けて、どの時点で何時頃に需要が多く、ゆえに料金を高くすればよいか? という実験プロジェクトを展開してきました。要するに、需要が多いんだったら値段を高くして、市の収入を増やし、なおかつ駐車スペースの回転率を上げようじゃないか、というのが目的です。さらには、リアルタイムの状況をドライバーに公開することで、ユーザの利便性も追求したい、という意図もあります。



sfmta_parking-sensorsこのプロジェクトでセンサーとして使われたのは、アイスホッケーパックみたいな磁気探知機(magnetometer)。道路の駐車スペースに埋め込まれ、センサーの上に車体が乗ると「停車」と判断して、付近の電柱に取り付けられたリピーターに「車が停まったよ」と信号を送ります。リピーターは近くのゲートウェイにセルラー通信で停車の報告をして、ゲートウェイからはバックエンドシステムに報告が送られます。車がいなくなったら、同じ経路でバックエンドに伝えられ、そういったデータをひとつずつ集めて場所ごと、曜日ごと、時間ごとの実態調査が行われました。



sfmta_smart-parking-meter実験プロジェクトは、2011年春から2年間続けられ、その間8千箇所を超える地点で集められたデータを解析して、現在の場所ごと時間ごとの細かい料金体系が設定されています。このプロジェクトをきっかけに、昔ながらのパーキングメーターは姿をひそめ、今は街じゅうに「スマートメーター」が設置され、コイン、クレジットカード、スマートフォンによる支払いができて便利になっています。



sfmta_paybyphoneとくに、スマートフォンによる支払いには、PayByPhone(ペイ・バイ・フォーン)という支払いサービスが採用され、メーター上のNFC(Near Field Communications、近距離無線通信)ロゴにスマホをかざして支払いができるだけではなく、「もうすぐ時間が切れますよ」というメッセージを送ってくれるので、遠くにいても追加で料金を支払えるようになっています。追加支払いの場合は、メーターは「時間切れ」の表示になりますが、市の駐車監視員は手元の端末でチェックできるので、間違って「駐車違反チケット」を切ることがないようになっています。



p1220308smallスマートメーターは、SFparkの構想が本格化した2010年から設置が始まり、2015年夏には、市内すべてのパーキングメーターがネットワークにつながる「お利口さん」となっています。「全米で、もっとも進んだパーキングシステムである」と、市の自慢の種にもなっています。まあ、便利にクレジットカードで支払おうとすると、最低料金が2ドルを超える(300円弱)ので、昔の「30分25セント」のコインの時代と比べると、市の収入も格段に増えたものです。ちなみに、一番高い料金設定は、サンフランシスコ・ジャイアンツの試合日に球場(写真)近くのメーターで支払う「1時間7ドル(約770円)」。間もなく「8ドル」に上げる議案も検討されているとか。



img_4084_sfpark-sign-2そして、近頃は、街角でこんな電光掲示板を見かけるようになりました。こちらは、ダウンタウンで見かけた電光掲示板ですが、市が経営する立体駐車場にいくつスペースが残っているのかと表示しています。「あちらは満杯なので、こっちに停めた方がいいですよ」と、スペース数で案内してくれるのです。



立体駐車場のスペース検知システムには3通りあるようで、施設全体のスペースをざっくりと把握する方法、フロアごとに空きスペースを把握して表示する方法、そして、細かくスペースごとに空いているか埋まっているかを感知する方法があります。サンフランシスコ市の場合は、立体駐車場の把握にはそれほど力を入れていないようで、空きスペースは、駐車場出入り口のゲートの開け閉め回数で把握しています。



img_0628_santana-row-parking-sensor一方、こちらはスペースごとの感知システムを採用している、サンノゼ市のショッピングモールの例です。駐車スペースの上には、ひとつずつセンサーが取り付けてありますが、これは超音波センサー(ultrasonic sensor)。センサーが車を感知すると、内蔵のLEDライトが赤くなり、車が出て行くと緑に変わります。遠くからでも色で見分けられるので、「あ、あそこが空いている」と、すぐにわかるようになっています。



img_0631_santana-row-parkingこのようなスペースごとのセンサーを採用すると、「こちらは空きスペースが1つ、こちらには8つありますよ」と分かれ道に表示できるようになるので、ドライバーにとっても、むやみにグルグルと運転する必要がなくなって便利です。



スペースごとの状況把握ができると、駐車場の入り口に「5階には10台分のスペースが残っています」といった表示が可能になり、ドライバーも他の階はすっ飛ばして5階を目指せるのでフラストレーションの度合いもグンと低くなります。



img_0632_santana-row-parking-sensorsそんなわけで、シリコンバレーのパロアルト市でも、市が所有する立体駐車場に同様のシステムを採用しようと決議されました。パロアルト市は、以前からダウンタウンに散在する駐車スペースの場所表示がわかりにくいと問題になっていて、わざわざコンサルタントを雇って、新しい標識など駐車場のあり方を検討してきました。その一環として立体駐車場のスペース把握も討議され、「当初はお金がかかるけれど、未来に投資しようよ」と、スペースごとに検知するシステムが議会で採択されています。



というわけで、サンフランシスコ周辺の街角で見かけるようになった「スマート」製品。まだまだ発展途上にはありますが、ひとたびいろんな場所に設置されると、人の暮らしもずいぶんと楽になる可能性に満ちています。



夏来 潤(なつき じゅん)

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