税金のシーズン:サラリーマンも確定申告!

2019/03/25

カテゴリー:Silicon Valley Now

Vol. 222



「この世で確かなのは、死と税金のみである(In this world nothing is certain except death and taxes)」と、アメリカ建国の父ベンジャミン・フランクリンは手紙で書いています。この名言を噛みしめるアメリカ人が増えるのが、3月から4月中旬にかけて。

今月号では、税金にまつわる話題を取り上げましょう。



<面倒くさいアメリカの確定申告>

先日ワシントンポスト紙を読んでいて、驚いたことがありました。

2015年度に米国税庁に確定申告をしなかった人は120万人もおり、国から彼らへの還付金14億ドル(約1500億円)がそのままになっている、と。

納税者は、過去3年にさかのぼり申告できるので、2018年度の期日となる4月15日までに申告すれば、2015年度の還付金は受け取れるとか。けれども、合わせて2016年度と2017年度も申告する必要があるので、場合によっては追徴課税となる可能性もなきにしもあらず。

そんなわけで、還付請求をせずに放っておくと、みなさんのお金は自動的に財務省に送られる(贈られる)とか。(それだけあれば、立派にメキシコ国境の壁ができそうな・・・)



いえ、1500億円というのもすごい額ですが、わたしがまず驚いたのは、申告漏れが120万件もあるということ。だって、アメリカで収入のある住民のほぼ全員が国税庁と州の税務署に申告義務があるはずでしょう! 毎年、申告期日の4月15日といえば、誰もが「イヤな日」として認識しているはずなのに、それを無視する人が大勢いるなんて。

この申告漏れの多くは、パートタイムで働いている人や学生ということですが、大抵は雇い主が源泉徴収(tax withholding)をしているので、べつに「脱税」しているわけではありません。そう、日本も同じですが、給与からは規則(右の表)に従って所得税などの各種税金が引き去られているので、国が取りたいものはすでに取られています。

けれども、たとえば大きな病気をして高額な医療費を支払ったとか、住宅ローンや学生ローンを組んでいるといったケースでは税の控除を申請できるので、どんな人でも国と州に申告をして、還付請求をすることになっています(国と州は税法が違うので、控除対象となる事項が異なることもあり、別途に申告する必要があります)。



そんなわけで、真面目に申告しようとすると、本当に頭の痛い「年中行事」なので、我が家は会計士に依頼しています。中には、1年間ため込んだレシートや書類を丸投げする人もいますが、我が家の場合は日本語で書かれたものもあり、ある程度データを作成して会計士に差し上げています。が、それがまた大変な作業で、「どうしてその都度、データを表計算シートにインプットしておかないかなぁ?」と自分を叱咤するのも、立派な年中行事となっています。

我が家はカリフォルニア在住なので、国税庁(内国歳入庁:the Internal Revenue Service, 通称 IRS)とカリフォルニア州税務署(Franchise Tax Board、通称 FTB)への申告義務がありますが、前回の2017年度は、会計士が作成した申告関連書類(PDF)は、国用が100ページを超えていたような・・・。

こちらは、誰もが国に申告すべき個人用の「フォーム1040」という基本書類。

人によって異なりますが、我が家のケースは、その他に「フォーム8949」だの「フォーム1116」だの「フォーム4797」だのと、素人には理解しがたい書類が何種類も続きます。



わたしは「太陽系や銀河系を発見した人類の慧眼」にも敬意を表しますが、こんなに複雑な申告方法を考えついたアメリカ人の思考回路にも、大いなる畏敬の念を抱くのです。



<トランプ大統領の税制改革>

実は、2018年1月からアメリカの税法が大きく変わっています。2017年1月トランプ大統領が就任した際、最初に取り組んだことのひとつが税制で、これは数十年に一度と言われるほどの大変革でした(the Tax Cuts and Jobs Act)。

前政権のオバマ大統領とは一線を画したいトランプ大統領は、「お金持ち優遇措置」とも取れる変更点をいくつか掲げています。



まずは、所得税率(income tax rates)を下げています。たとえば、年収5万ドルの独身者の場合、これまでの25%が22%となり、年収10万ドルでは、28%から24%に下がります。夫婦二人の合算申告では、たとえば年収8万ドルとすると、従来の25%が22%となり、年収16万ドルでは、28%から24%に下がります。

こんな風に誰にでもおしなべて下がったように見えますが、下がり方は均一とはいえません。たとえば夫婦二人の年収が25万ドルから30万ドルとすると、従来は33%の税率が24%まで下がります。

そして、最大の所得税率は、今まで39.6%だったものが37%に下げられ、逆に適用所得枠は大幅に引き上げられたので、最高税率から逃れられやすいように設定されています。これでは、税率を下げなくてもいい人にも減税してあげたように見えるのです(最高税率の適用所得枠は、独身者で年収約42万ドル以上から50万ドル以上へ、夫婦二人で約47万ドル以上から60万ドル以上へ引き上げられています)。(Table of tax brackets, 2017 and 2018, from Magnify Money)



学校教育に関しても、お金持ちに向けた優遇措置が取られています。これまでは、大学進学に限られていた預金制度(529 college savings plan)が、幼稚園から高校にも適用されるようになり、子供が小さいうちから州税の軽減といった優遇を受けられるようになりました。これで、高額な私立学校に通わせるために貯金しやすくなったということで、一気に不公平感が広がっています。



そして、相続税(estate tax)の免税範囲も大幅にアップしています。これまでは、相続した現金や株式、その他の財産の合計額が550万ドル(約6億円)まで免税だったものが、1100万ドル(12億円強)まで課税なしとなっています。つまり、10億円を相続したという場合、2017年に亡くなった方からの相続だと最高40%の相続税が課せられていたところ、2018年に亡くなった方からの相続では免税になるということです。(右は、課税対象となる相続の際に申告する「フォーム706」)

相続税の免税範囲に関しては、2000年以降は上昇傾向にあり、たとえば2005年には150万ドル(現在の換算レートで約1億数千万円)まで免税だったところ、2010年には500万ドル(約5億5千万円)に引き上げられ、それが2018年の税制改革で倍以上に大幅アップしたわけです。



民主党支持基盤への「報復措置」と取れるものもあります。たとえば、オバマ大統領があれだけ苦労して明文化した医療保険制度への加入義務(the Affordable Care Act mandate)も、トランプ大統領にとっては目障りなものだったようです。「義務(mandate)」の言葉は取り払われ、違反した場合のペナルティーも2019年1月から撤廃されています。



さらに、カリフォルニア州やニューヨーク州といった民主党支持者の多いところは、2016年の大統領選ではトランプ大統領に投票していない。そして、そんな州は、おしなべて住宅価格が高い。そのため、利子控除のできる住宅ローンの上限は100万ドルから75万ドルに引き下げられています。



と、変更点の多々ある2018年度。先日、確定申告の準備のために会計士とミーティングをしましたが、「結局のところ、税金は上がるの?下がるの?」という質問に対して、「あまり変わらないでしょう」という彼女の答えでした。

まあ、どう転んでも、払うべきものは事前に源泉徴収されていたり、源泉徴収できない分は四半期ごとに予測所得税(estimated tax)として国と州に支払ったりしているので、税金が上がっても下がっても、こちらはもう首根っこをおさえられたようなものです。

けれども、学校の先生や看護婦さん、バス・電車や道路清掃車の運転手さんと社会構造を支える方々にとって、今回の税制改革は果たして減税となるのか? という点は、大いに重要な問題ではあります。

今のところ、今年度の国税庁から納税者一人当たりへの還付金は、前年度と変わらないということですが、申告期日の4月15日以降、いろんな不満が湧き起こるのかもしれません。



<ちょっとご注意を>

というわけで、アメリカの確定申告は面倒だというお話をいたしましたが、実は、収入が会社の給与のみで、その他にアルバイトや投資といった収入源がない、または大きな病気や相続というイベントもなかったという場合は、そんなに面倒なことではありません。

今は、「TurboTax(ターボタックス)」などの申告ソフトが整っているので、「計算機片手に徹夜で記入」というのは過去のお話となっていますし、こういったソフトウェア会社は、オンラインで疑問に答えてくれるサービスも提供しています。



そして、控除内容に関しても、大きなイベントがない場合は、基本控除(standard deduction)というのを選択できます。そう、いちいち項目を列記していく控除方式(itemized deduction)ではなく、決められた額を控除できるのです。ありがたいことに、今年度からは基本控除額も倍になっています(独身者で6,350ドルから12,000ドルに、夫婦合算で12,700ドルから24,000ドルに引き上げられました)。

こちらの方が簡素なので、申告者の7割は、基本控除を選択するということです。(だったら、なんのためにサラリーマンを含めて全員が確定申告をしなければならないのか? という疑問は残ります・・・源泉徴収の取り過ぎなのか、はたまた税金会計業界を盛り立てていくためなのか・・・?)



いずれにしても、そんなに恐れることはない確定申告ですが、外国からアメリカに来た人が申告する際、いくつか留意する点があります。ご参考までに、二つ記載いたしましょう。



まずは、アメリカにとって海外(たとえば日本)に銀行口座を持ったり、株式を保有したりする場合、ある一定の額を超えると国税庁に申告しなければなりません。「フォーム8983」と別途財務省に申告する「フォーム114(FBAR)」というものですが、銀行口座の場合は、金融機関の名称や住所、口座番号、年間の最高預金額を記入することになっています。(申告は、通常の確定申告と同じタイミングに行います。申告義務に関しては規定があるので、専門家に相談した方がいいでしょう)



それから、日本を含めた海外での遺産相続について。海外で相続した財産については、アメリカで税を支払う義務はありませんが、報告の義務があるそうです。相続内容の報告には「フォーム3520」を使いますが、たとえば個人から10万ドル以上の価値のある財産を相続した場合は、内容と市場価値(fair market value)を報告するようになっています。(個人から相続した際は1ページ目と「Part IV」を記入するそうですが、詳細については、あくまでも専門家に相談すべきですね)

ちょっと怖いことですが、こちらの報告義務を怠った場合は、「(厳しい)ペナルティーを課す」と国税庁の説明書に列記してあります。



というわけで、アメリカの税金にまつわるエピソードをご披露いたしました。

そもそも確定申告は、英語で tax filing といいますが、tax return とも呼ばれています。「税金が戻ってくる」という意味で return(戻る)なのだと思いますが、なるべくたくさん戻ってきて欲しい! と願うのは、どこの国民も同じでしょうか。



夏来 潤(なつき じゅん)



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