一瞬の間に闇:シリコンバレーの詐欺事件

2018/08/27

カテゴリー:Silicon Valley Now

Vol.217

今月は、いきなり犯罪の匂いのする題名ですが、世界じゅうどこに住んでいても、悪い人間はいる、というお話です。



<え、Pくんが?!>

そうなんです、我が家が直接的に被害に遭ったわけではないんですが、間接的に影響を被ったというお話を一席。

こちらの「シリコンバレーナウ」シリーズにも二度ほど登場してもらったことがありますが、我が家のファイナンシャルアドバイザー「Pくん」に災いが降りかかったのでした。

7月の最終月曜日、お昼休みを終えた時間帯に、連れ合いが書斎から下りて来て、「Pくんがクビになったって電話してきたよ」と言うのです。わたしもあんぐりと口を開けて返答につまったのですが、なんでも、彼のクライアントと名乗る人物が「この口座にお金を振り込んでよ」とメールで依頼してきて、彼のアシスタントが十分にチェックせずにクライアントの口座からお金を振り込んでしまったとか。

もちろん、クライアントは被害額を返してもらったし、Pくんが勤める投資銀行だって、なにがしかの保険に入っているに違いありません。ですから、この詐欺事件での実害はなかったに等しいでしょう。けれども、そこはお堅い金融機関。このような悪評の立ちそうな出来事が起きて、「けじめ」をつけないわけにはいきません。そのとばっちりで、Pくんが「監督責任」を問われて解雇となったのでした。

Pくんは、シリコンバレーのカトリック系私立大学に在学中、インターンとしてある投資銀行で働き始めました。卒業後は、この投資銀行に就職し、我が家の元ファイナンシャルアドバイザーの弟子となり、彼らが別の投資銀行に転職する際に、Pくんにバトンタッチしてもらいました。それが、ドットコムバブル(ネットバブル)がはじけて間もない、2002年末。

そこから大手銀行の投資部に移籍し、さらに現在の投資銀行に転職する際も、ずっとPくんに面倒をみてもらっていました。ですから、今の銀行に移って10年、全体では、もう16年の付き合いになります。以前も書かせていただきましたが、その間、Pくんの業界での熟練ぶりと、人としての成長ぶりを見せてもらったのでした。

二十歳のときにインターンを始めた彼も、今月には「40歳」というマイルストーンを迎え、若々しいイメージも、三人の子を持つパパの貫禄に変わっています。

それで、まだ5ヶ月の乳のみ児を抱えるPくんは、これまでのコネクションを最大限に使って投資系の金融機関で職探しを始め、2週間のうちには「内定」をもらいました。まさか自分がクビになるとは夢にも思いませんでしたが、「もしも別の金融機関で働くとしたら、こんなところがいいな」と、日頃から二、三社に目星を付けていたそうです。

そのうちの一社から、先日、正式にオファーをいただき、めでたく契約書を交わしたのでした。今はサンフランシスコ支社に在籍しますが、これからシリコンバレー支社を盛り立てる、という大きなミッションもいただきました。

そんな風に、Pくんにとっては良い結果となりましたが、我が家にとっては「災難」は続くのです。べつに、今の銀行に不服はないのですが、Pくんが「うちに来い」と強行に誘ってくるのです。新しいところも悪くはなさそうですので、移っても問題はないとは思うのですが、まあ、今の口座から自動引き落としになっている支払い件数が多くて、それを変えると思うと、もうゾッとするのです。だって、アメリカでは、何事も一回ではうまくいかないのが常ですから。

さらには、12月までの会計年度の途中で銀行を変えると、(アメリカでは全員がやらなくてはいけない)確定申告をお願いしている会計士への報告も複雑になりそうですし、考えただけで、心臓の鼓動が速くなるのでした・・・。

<シリコンバレーの巧妙な詐欺>

というわけで、銀行を移るのは、ちょっと保留にさせてもらっていますが、詐欺といえば、シリコンバレーでは決して珍しい出来事ではありません。

たとえば、Pくんのケースでは、「犯人」がメールシステムにハッキングしてきて、クライアントとPくんの関係を詳細に盗み見て、うまくクライアントになりすましてメールで口座振込を指示してきたのでした。こういったケースでは、気がついた時には口座は解約されていますし、そもそも誰が開いたものか正体は定かではありません。ですから、犯人は十中八九捕まらないタイプの詐欺事件です。

こんなケースもありました。ある会社の財務責任者にCEO(最高経営責任者)と名乗る人物からメールがあって、「製品展示会にブースを出すから、スペースを確保するために主催者側に出展料を支払わないといけない。だから、仲介者の口座に緊急に入金してくれ」と依頼されました。そこで、はなっから信じ込んだ財務責任者が大手銀行の指定口座に4万ドル(約440万円)を振り込んだのですが、それは、まったくのウソ。

このケースでは、メールのハッキングではなく「なりすまし」だったのですが、この会社のCEOと財務責任者が誰であるかを知っていて、それを利用してやろう、と目論んだ詐欺事件でした。もちろん、指定された銀行には調査と口座の抹消を依頼し、銀行からもFBI(連邦捜査局)に被害届が出されましたが、時すでに遅し。被害金額が戻ってくることはありませんでした。

こういったケースは少なくないので、Pくんもクライアントの幾人かから、「僕も同じようなことを経験したよ。だから気落ちしないように」と、慰めの言葉がかけられたとか。

1990年代後半のインターネットバブルの頃には、こんなケースもありました。友人がフェラーリを買おうとして、ディーラーと名乗る人物に全額を前金で支払ったのですが、いつまでもたっても納車されません。どうしたのかと思って連絡しようとしても、相手にはつながらない。そこで初めて「え、これって詐欺?!」と気がついたのでした。

このケースでも、FBIが捜査に乗り出したのですが、真っ赤なフェラーリが夢で終わっただけではなく、お金は一銭も戻ってきませんでした。(Photo of Ferrari coupe by Norbert Aepli、from Wikimedia Commons)

こちらのフェラーリの事件は、直接犯人に出会って騙されたケースですが、昨今、とくに企業が絡んだ事件では、メールを使った詐欺が主流なのではないかとも思われます。ですから、メールで「緊急だから」と送金依頼があったとしても、電話で相手に確認する一手間をかけないと、信用できない状況になっているのかもしれません。

そう、古き良き電話も、役に立つことがあるのです。

<アメリカ版「オレオレ詐欺」>

それで、日本では電話に頼る世代の方々をターゲットに「オレオレ詐欺」が横行すると聞きますが、実は、アメリカにも似たような手口があるんですよ!

こちらの場合は、若い親世代をターゲットにした「誘拐詐欺」です。だいたい、こんな風なシナリオでしょうか。

子供を学校に送ってしばらくすると、お母さんのスマホの着信音が鳴ります。電話口の相手は、「お前の子供をあずかっている。このまま電話を切らずに、銀行で金をおろせ。そして、近くのスーパーマーケットにあるATMでこの口座に振り込め」と要求してきます。

恐ろしいことに、背後には子供の叫び声が聞こえ、相手は「従わないと、子供の指を切り落とすぞ」とか「子供がボディーバッグに入って戻ってきてもいいのか」と脅しをかけてきます。

あるケースでは、ATMで振り込む直前に友達のお母さんとメッセージをやりとりできて、「あら、あなたの娘さんなら、うちの娘と一緒に遊んでるわよ」と、誘拐が架空であったことが発覚しました。が、犯人との電話を切ることもできずに、事実確認ができなくて、お金を振り込んでしまうケースも続出しています。

FBIも2年ほど前から警告を発している架空誘拐(virtual kidnapping)の詐欺事件ですが、犯人の大部分は、メキシコの刑務所に入っているのだといいます。刑務所に「密輸」した携帯電話を使って、アメリカの一般家庭に電話をかけて誘拐をほのめかす手口。

まずは、狙った都市の市外局番と上三桁の番号を(刑務所に設置された)ネットで調べ、手当たり次第に電話をかけて子供の叫び声を聞かせる。「メアリー! メアリーは大丈夫なの?」と相手が食いついてきたところで、「お前の子供をあずかった」と脅し、身代金としてメキシコの銀行口座に振込を要求する。国境を超えると、まとまった金額は送金できないので、複数の口座に少額ずつ振り込むように指示されることもあるとか。中には、刑務所にいながら詐欺グループを結成し、アメリカに住む仲間に多額の身代金を受け取らせたケースもあります。

基本的には、ランダムに電話をかけるので、国境近くの都市に住む誰もが被害に遭う可能性のあるスキームです。が、近頃はフェイスブックなどのソーシャルネットワークに書き込まれた情報をもとに、家族構成や生活パターンを把握できるのも犯罪に拍車をかける要因ともなっているようです。

詐欺に使われた電話は足がつかないものだったり、すでに解約されていたりと、犯人を特定する糸口とはなりません。ですから、叩こうと思っても叩けない「モグラ叩き(Whack-A-Mole)」のようなものでしょうか。

メキシコをはじめとして、海外にはアメリカで働いた経験のある人が多いので、「金のありか」を鼻で嗅ぎ分けるのは容易なことでしょう。そして、アメリカの中でもカリフォルニア州、とくにシリコンバレーには「お金がたくさんあるに違いない」というイメージが定着していて、なにかと国内外からのターゲットになりやすいのかもしれません。

いつの時代も、自分の情報は必要以上に公開しない、お金を振り込む前には再度確認する、というのが一番の防衛策なのかもしれませんね。



夏来 潤(なつき じゅん)

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